薬剤耐性検査のためのトレーニングを実施しました
SATREPS 2019年10月24日
HIVは増えるスピードがとてもはやく、高い確率で変異を起こすウイルスです。抗HIV療法をうけているにもかかわらずウイルス量が高い状態が続くような場合は薬剤耐性が疑われ、薬を飲み続けてもウイルスの増殖は抑えられず、エイズを発症するリスクが高まってしまいます。細菌やウイルスなどが持つ薬剤耐性の問題は、AMR (Antimicrobial resistance)と呼ばれ、現在の医療現場において世界中の注目を集めている大きな問題ですが、HIV/AIDS 診療でも、同様に大きなトピックとなっています。
薬剤耐性があるかどうか確かめるためには、ウイルスの遺伝子検査が必要です。ウイルスの変異を把握することで、効果のある薬に変更するなどの対処ができ、ウイルス量を抑えることができます。SATREPSプロジェクトでは、ベトナムの臨床検査技師に対し遺伝子検査を行うためのトレーニングを行っています。 10月14日からの2週間、当センターの林田研究員が遺伝子検査の方法を指導しに行ってきました。
NHTD臨床検査技師のHoaさん
既に色々な検査業務に経験のある国立熱帯病病院(NHTD)の検査技師のHoaさんですが、遺伝子検査は初めてでした。林田研究員と一緒に検査しながら、実践を通してやり方を学んでいきました。検査では、①血漿中に存在するウイルスが持つ RNA を抽出し、 ②PCR(polymerase chain reaction:複製連鎖反応)を用いて、ウイルス変異を見るための特定の部位のDNAのみを増幅させます。③増幅させたDNAをシーケンサーと呼ばれる分析機器にかけてDNA の塩基配列を明らかにし、ウイルスがどういった薬剤に耐性を持つようになってしまった(変異してしまった)か、を読み解きます。
サーマルサイクラーと呼ばれる機器にかけDNAを増幅
シーケンサーの解析結果を基にHIVの薬剤耐性有無を判断
遺伝子検査の結果をもとにどの薬を処方するかは、臨床医師の経験と判断が重要で、検査部門と臨床部門の共同作業により、検査結果が臨床現場へフィードバックされていきます。 まさに「bench-to-bedside」ですね!しかし、日本とは違いベトナムでは処方できる薬の種類が限られています。どのように薬を変更していくかも、議論が必要な大きな課題です。 今回は地方病院で採取された検体を実際に検査しながら、遺伝子検査のノウハウを伝えていきました。これからも早期にウイルスの変異を発見・対処し、効果的な治療を継続するために、スムーズな遺伝子検査が実施できるようトレーニングと実践を重ねていきます。
林田研究員、Hoaさん、松本研究員、今井JICAコーディネーターとNHTDオフィスにて