保健省HIV/AIDS予防局とHIV薬剤耐性への対応について議論
SATREPS 2022年9月9日
私たちの実施しているSATREPSプロジェクトの最終目標は、各種研究結果に基づき、ベトナムにおけるHIV/AIDS対策に対しての政策提言を行うことにあります。そのためには、病院での臨床レベルでの各種活動に加えて、政策策定・実施機関である省庁、特にベトナムにおいてHIV/AIDS対策を一元的に行っている保健省HIV/AIDS予防局(VAAC)との協働が欠かせません。コロナ禍においても機会を見つけてオンラインで、或いはハノイのプロジェクトメンバーでVAACとの議論は続けてきましたが、今回プロジェクトリーダーのACC岡センター長が約3年ぶりにハノイへ出張し、今年5月にVAAC局長に就任したばかりのPhan Thi Thu Huong局長と8月18日に会談を行いました。
プロジェクト側からは開始から3年間の研究結果を報告し、その中でHIVウイルス薬剤耐性検査の重要性が改めて示されました。もしウイルスが変異し、特定の薬剤に対して耐性を持ち始めれば、どれだけ薬をきちんと飲んでもウイルス量を抑えられません。そのため、ウイルス量が下がらないHIV感染者に対して薬剤耐性検査を実施し、耐性の現状を把握し、必要に応じてウイルス量をきちんと押さえられる薬に変更していくことが大事です。また逆に、ウイルス量が下がらない理由は必ずしも薬剤耐性ウイルスではありません。服薬がきちんと出来ていないことも考えられます。その場合においても、薬剤耐性検査で治療が上手くいかない理由が耐性ウイルスでないことを確認し、不必要に(往々にしてより高価な)薬に変えることなく、現在処方されている薬をきちんと服用する指導することが効果的です。プロジェクトからは、ベトナムHIVケア提供者の薬剤耐性HIVに関するキャパシティビルディングを目的に、臨床家に対するワークショップを実施し、臨床の場で活用できるHIV薬剤耐性参考書(HIV Drug Resistance Knowledge Book(仮))を作成することをVAACに提案し、協力を依頼しました。
ACC岡センター長、松本研究員、永井研究員が研究中間結果を報告
VAAC局長始め、前向きな反応が得られ、今後より緊密に協働していくことができて、良い会議となりました!
プロジェクト側からの発表を受けてベトナム側VAAC・Huong局長からは、同局が薬剤耐性ウイルスに対処する行動計画を実施中であり、現在までのところ耐性ウイルスの蔓延は抑えられているというプロジェクトの研究結果を歓迎しました。その一方で、薬剤耐性にどう対処していくか、薬剤耐性検査結果をどう治療に活かしていくかについてはベトナムとしてのガイドラインはまだ存在せず、それを作成していくVAACの専門家会合(Technical Working Group)へプロジェクトに積極的に参加して欲しいと意思表明がありました。
現在ベトナムにおいては薬剤耐性検査が医療保険でカバーされていない、また検査実施機関も限られているなどの課題もあります。ただ、これから更にHIV治療の効果を高めていくためには、薬剤耐性検査を行い、処方されている薬が実際効いているのかをきちんと確認していくことはとても大事なことです。さらに一歩先のより良いHIVケアを提供する一助となれるよう、今後も保健省HIV/AIDS予防局との連携を密にし、積極的に同局への政策提言を行っていきます。
これまでの活動はJICA(独立行政法人国際協力機構)のウェブサイトでも紹介されています。